21世紀型教育のススメ

東京都文京区の学習塾ESCA、大学や専門家と連携したマグネットスクール、教材作成などを手がける会社(エスカルチャー株式会社)の代表取締役のブログです。

全ての学びは暗記から始まる 〜詰め込み教育は悪なのか〜

最近、教育業界において「考える力」が重視されていることは周知の事実だ。しかしその影で、「暗記」を軽視する流れが強まってきていると感じている。「受験勉強においてはなんでも暗記してしまって、考える力がやしなわれない」という言葉は、誰しも聞いたことがあるのではなかろうか。では、丸暗記する行為というのは、将来を考えた上で是なのか非なのかということを考えていきたい。
 
 

数学はどこまで暗記する?

一番意見が分かれそうな数学を例に挙げて考えてみる。基本的な定理や定義、公式等は暗記しなければならないのは分かりやすい。では、問題の解法は暗記すべきなのだろうか。結論からいうと、これは暗記すべきものである。なぜなら、解法というのはノウハウであるからだ。
ノウハウというのは社会に出てからも非常に重要なものだ。社会に出て、企業で働くことになったとき、自社のノウハウを一から考え出すことなどしない。まずは自社ノウハウを覚えてから、新しいノウハウを開発していくのが効率的な方法である。新しいノウハウを開発するにしても、ベースとなるノウハウは必ず必要なのだ。
新しいノウハウを開発したときもそうだ。新しいノウハウは結局のところ、より効率的に課題を解決するツールでしかないのだから、どんどん知識化し、暗記していかなければ、効率的に進化してくことはできない。また、知識化し、周囲と共有しなければ、後進育成もできず、まわりも成長できない。また一から似たような問題を解決していかなければならなくなる。
 

理解を伴った暗記は重要だがマストではない

丸暗記の印象が悪い理由の一つとして、理解しないまま覚えるということに対する批判がある。もちろん、理解しなければ覚えにくいし、理解していなければ応用することもできない。しかし、どうしても理解できないことや、理解に時間がかかる場合はどうすれば良いのだろうか。ベストな方法とは言えないものの、私は理解を伴わない暗記もアリだと思っている。
その際に重要なのは、使用するツールと原因・結果のセットを暗記することだ。ツール自体を理解していなくても、そのツールを使用した問題と使用した結果を数多く暗記しておけば、その間は後で埋めることができる。重要なのはその間の関係性を埋めることなのだが、これは人生における経験が必要な場合が多い。皆さんも「あのとき習ったあれは、そういうことだったのか」と後から気付くという経験があるかと思う。
しかし、実はこれも人生において経験したことを「暗記」していなければ成り立たないのだ。実は私ががAI(人工知能)に興味を持っているのは、この「経験から原因と結果の関係性を見つける」ということが、まさにディープラーニングに通じるところがあるからだ。これについてはまた時間があれば書こうと思う。
 
 

知識がないと考えられない

最近巷で話題の「考える力」においても、暗記は必須の能力だ。人間は、知らないもののことは考えることができない。もっと正確に言うならば、知っていることを考える方が効率的なのだ。極端な例だが、1+1が2になることを知っていなければ、3+5はできないのだ。
新しいアイディアというのは9割以上は既存のものの掛け合わせと言われている。身の回りを見渡してみても、イノベーションを起こしたと言われるものでさえ、既存のものの掛け合わせから生まれていることが多い。代表的なものにiPhoneがある。いうまでもなく革新的な商品であるが、これもタッチパネルと携帯電話、PCなどの要素を掛け合わせて作られている(実際はもっと複雑なのだろうが・・・。)
アイディアはかけ算だと簡単に言ってしまったが、アイディアを導きだす過程においても暗記したことは重要になってくる。なぜなら、暗記した知識やノウハウがなければ試行錯誤ができないためだ。
例えば、ある命題に関して、3つしか知識を持っていないAさんと、6つの知識を持っているBさん、9つの知識を持っているCさんを考えてみる。(知識と思考の幅をイメージしたいだけなので、細かい話は置いといてください。)
 
【Aさんから出てくるアイディアや解法】
知識①
知識②
知識③
知識①×知識②
知識②×知識③
知識③×知識①
知識①×知識②×知識③
 
Aさんの持っている知識からは、単純に考えて、上記の7パターンのアイディアが出てくることになる。
では、BさんとCさんは何個のアイディアが出てくることになるのだろうか。数え上げでは面倒なので、計算で求めてみると、
【Bさんから出てくるアイディアや解法】
6C1+6C2+6C3+6C4+6C5+6C6=63通り
【Cさんから出てくるアイディアや解法】
9C1+9C2+9C3+9C4+9C5+9C6+9C7+9C8+9C9=511通り
 
つまり、知識量が増えれば、アイディアや思考のパターンは急激に増加するのである。
逆に、知識がなければ試行錯誤もできず、考えることもできない。
 
 

暗記と思考のサイクルが重要

詰め込み教育の定義がはっきりしないまま、世間で一人歩きしているように感じるが、基本的にはある程度知識を詰め込むことは重要な作業なのだ。(詰め込んだままの状態で、原因と結果の因果関係を明らかにしない、トライ&エラーをしないということであれば、確かに問題はあるのだが)
学習塾で教えていて思うのは、成績が上がらない子は、まず間違いなく暗記ができていない。授業で理解して安心してしまい、「自分は分かっている」と思い込んでしまうのだ。成績が上がらないと悩んでいる方は、是非「暗記の時間」を確保してみてほしい。
巷ではPDCAサイクルが重要という風に言われているが、勉強に限らず、広く「学習」という意味においては、PDCAだけではなく、「理解する」→「覚える」→「考える」→「新しい発見を理解する」→「新しい発見を覚える」→「新しいことを考える」
というサイクルが重要である。